2010/02/05

その恋は叶わなかったのかもしれない


 ここのところ仕事のためにブラームスのヴィオラソナタ第1番をさらっていました。ヴィオラソナタとはクラリネットソナタを作曲者自身がヴィオラ用にアレンジしたものですが、多少の重音が加えられている他はほとんど原曲と変わりなく、ヴィオラ奏者にとって大事なレパートリーとなっている曲です。
 
 60歳近くなったブラームスは自らの老いを感じ、作曲をやめようと遺書まで書くのですが、ミュールフェルトという素晴らしいクラリネット奏者との出会いを経て、最晩年の傑作であるクラリネット三重奏(作品114)、クラリネット五重奏(作品115)、クラリネットソナタ2曲(作品120)を書き上げました。作品番号100以降の曲には、若い演奏家には表現しきれないほど老齢のブラームスの孤高の心境が映し出されたものが多いのですが、特に最後の2曲のクラリネットソナタは、寂寥や諦観、過去を懐かしむかのような暖かい気持ちを湛えた深い作品となっています。

 私は第1番第2楽章の甘く切ない旋律を弾いていて、ふとクララ・シューマンとの恋は成就しなかったのではないかと思いました。実際に弾いてみるまでそうは感じなかったのですが、こんなにも美しく愛に溢れ、同時に手が届かないもどかしさを感じる音楽は、欲しいものを手に入れてしまった人には書けない気がしたのです。もちろんそれは私の勝手な妄想ですが、近くクラリネットと2番のソナタを演奏する予定があるので、そのイメージを踏まえて研究してみようと思っています。

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