たまに「伴奏科って具体的に何を勉強するの?」と聞かれることがあります。これを一口に説明するのはとても難しいのですが、名前のとおり伴奏ばかりやっているわけではありません。むしろレッスンではソリストの伴奏をする方が少ないくらいなんです。
伴奏科というと、一般的には歌曲伴奏のクラスを指すことが多いようです。そこでは曲の内容や語学の研究を通して、歌手との室内楽的なアンサンブルを勉強します。ここで必要とされる特殊能力は移調。日本では「今日は喉の調子が悪いから音下げてくれる?」なんてことは滅多に言われませんが、海外では結構あることなので必須です。
歌曲伴奏クラスの次に多いのはオペラ伴奏のクラスで、こちらは内容や語学の研究に併せて、オーケストラのスコア譜を読むことや指揮者に合わせて演奏することを学びます。もちろんここでも移調は必須。さらに練習段階では伴奏しながら指揮を振り歌手達に音楽的アドバイスを与えるなど、副指揮者の様な役割を務めることもあり、広い知識が必要とされます。
そして全世界的に見てももっとも少ないと思われるのが器楽伴奏科。私の知る限りではパリ国立高等音楽院の伴奏科が一番有名で、ここでは多くのことを勉強します。例えば初見試奏はもちろん、スコアリーディング、移調、通奏低音、オーケストラ内での鍵盤楽器全般の演奏などなど。なぜこんなに多くのことを勉強するのかというと、オールマイティなピアニストを育てることが目的だからです。そのため器楽伴奏科を志す人は、ピアニスト並みにピアノが弾ける作曲家か、作曲家並みに楽譜が理解できるピアニストかのどちらかであることが多く、卒業生はいわゆる普通の伴奏の枠内にとどまらず多分野で活躍する人がほとんどです。私が勉強したのもこのクラスですが、私は根性で入試にパスしてしまった口なので、クラスに入ってから周りの天才達についていくのに苦労しました。
写真はベートーヴェンの交響曲第1番第1楽章冒頭。留学中に指揮科クラスの伴奏を頼まれ、何度もスコアリーディングした思い出深い曲です。器楽伴奏科にはこういったちょっと変わったアルバイトの依頼がたくさんあって、普通のピアノ科にいたらできない経験をたくさん積ませてもらえたことは、今の自分を支える大きな宝です。
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