2015/02/03

ふわりと飛ぶ

 抜けるような青空、ピリッとした冷たい空気、葉の落ちた並木道。今朝いつもと同じ道を通って大学へ向かう最中、ふと留学先でもこんな日があったことを思い出しました。

 留学したての頃に借りていたアパルトマンは、一人で暮らすには広すぎて寒く、借り物のアップライトピアノには音が漏れないようたくさん詰め物をして、さらに弱音ペダルを踏んだまま縮こまって練習し、朝起きて一番に目に入ってくる真っ白な漆喰の天井を見上げる度に、私は自分がどこにいるのか本気で分からずにしばらく混乱するような状態でした。留学を思い立ったのは出発の半年前で、フランス語はほぼ初心者のまま。周りに親切にしてくれる人はいたけれど、本当の意味での友人は出来ず、思い返してもこれまでで一番苦しい時期だったと思います。

 そんな悶々とした冬のある晴れた午後、私は高級住宅街の大きな通りを歩いていました。歩道の幅は広くて両脇には背の高い並木が植えてあり、葉を落とした木々の枝が青空を背にくっきりと見えました。あたりには他に人影もなく、私一人その歩道の真ん中を歩いていた時のこと。遠くから鳩の一群がこちらに向かって飛んできました。鳩たちは低く羽ばたきもせずに滑空してきて、まるで私が見えていないかのように、私の頭上すれすれや顔の横を通り抜けていきました。その瞬間鳩がおこした向かい風に髪がなびき、自分の身体がまるで風の一部になったみたいに軽くなり、そのまま地面を蹴ったらふわりと飛んでいけそうな気がしました。もちろん実際にはそんなことはなくて、鳩たちが通り抜けた後も私は立ちすくんでいたのですが、ようやく意識の焦点が定まってきた時に、そこにいることを許されたような気がして、とても気持ちが楽になったのを覚えています。

 帰国後はその体験を思い出すこともなかったのですが、今朝ふと同じような空気を感じて、急に鮮やかに思い出しました。もうあの頃のような焦燥感や不安はありませんが、今でもあの鳩たちが通り抜けた瞬間を思い出すと、宙に浮くような不思議な気持ちになります。

 写真は同じ通勤途中で見つけたカンザクラの花。大学構内でも梅の花が咲いているのを見かけましたが、寒くても自然は着々と春を迎える準備をしているのですね。明日は立春だし、これからどんどん日が長くなっていって、お散歩ができるくらいの気温になるのを楽しみにしつつ、明日もお仕事へ行ってきます!

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